2015年4月7日

寝る前の即興掌編

 生きてるだけで周囲の何でもかんでもをずたぼろに傷つけずにおけないのは人間の種としての、というよりは生き物としての性質だけど、もう嫌なんだ。僕だけは。僕は傷つけるより傷つけられる方がずっといいしそうなりたい。生きてるだけで自然と犯してしまう過ちや、そうでなくてもどうしようもない最善の選択によって誰にも気づかれないままひっそりと傷ついていたい。世界から切り離された孤独を感じて絶望に打ちひしがれながらそれがじくじくと身体の外にしみ出ていくのをじっとこらえていたい。もちろん僕にも逃げ場はたくさん用意してあって、それは傷つけるという立場に甘んじることや何もかもに無神経でいられるようにただ楽しく生きること、それに死ぬことだってできる。僕には、他のすべての人間と同じようにその道が用意されている。だけど拒否する。僕は環境のためでなく、あくまで自分の選択で傷つけられていたいのだ。

「傲慢だよ、そんなの」

 わかってるよ馬鹿。でもわかっててもどうしようもないことってあるだろ?これがずばりそれなんだよ。僕は「どうしようもない最善の選択」で自分を傷つけようとしているつもりだし、それは「どうしようもない」からどうしようもなくて、もちろん君にとっても同じこと。君は僕を救えないし、それで当然なんだよ。僕の過ちをご親切に指摘してくれても結局それはただの事実の指摘であって反省には繋がらない。いや繋がるけど改善しない。僕はこのことを君に理解してほしいと思う。僕は君のことが好きなんだ。

「ばかはどっちだよ?」

 どっちだろう?どっちもじゃない?……いや僕か。僕だな。周囲を見渡してみたらなぜか僕の途切れた下半身が遠くに見える。足を絡ませて転がっている。コンクリートのざくざくした表面の凹凸に肉が削がれて細かく残る真っ赤な軌跡。灼けた鉄の匂いがむんと広がって、でも目の前にいるのは僕を馬鹿呼ばわりするこいつ。こいつって……誰だっけ。いまいち焦点も合わなくて見えないし顔がわからない。聞こえる声もなんだかエコーがひどくてよく聞き取れない。でもこれだけは憶えている。僕がこいつを好きだったってこと。

「死ぬなよ」

 死ぬかよ。それはたぶん最善の選択肢じゃない。僕は生きるべきなんだ。この先ずっとこいつのために傷つき続けるためにも。だからそのためにはちょっとくらい周囲の何かを傷つけてしまうこともあるかもしれないし、ひょっとすると僕はそのことに気づくことさえできないかもしれない。嫌だけど……仕方がない。嫌いなことっていうのは、どうしてもできないことってわけでもないのだ。ある程度嫌なことでも、それが正しいことをするために必要なことなら、我慢するべきなのだ。人間として。一人の大人として。僕個人の考えとして。

 生きるよ。

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