2014年12月30日

2014年個人的ベストシネマ10+α

 今年も末ということで、2014年に見た映画の中からトップ10を選出するというやつを僕もすることにしました。
 でも僕は最近映画を見始めたばっかりの若輩者。面白い作品が面白いということはわかる。「この映画に出会えて良かった!」という感動はちゃんとある。しかし映画としての出来なんて素人にはあんまりわかりません。じゃあ何を尺度に作品を選ぼうか? ちょっと悩んだけど、簡単なことです。

 「この映画に出会えて良かった!」これでいいいじゃん。

 これを尺度にして作品を選んでみました。作品の公開年については無視して、「僕が2014年に観た作品」というゆる~い縛りでピックアップしてます。なので古いものから新しいものまであるかと思います。既に観た方はぜひ楽しんで、まだ観てないよって方はこれが作品に触れる機会になれば至上の喜びです。

 今年は114本の映画を観ました。そのうち2014年公開の新作映画は11本……。少ないですね……。ほんとは200本いきたかった。今年はいろいろなことがあって趣味に手が出せないことが多かったのですが、来年こそは!(来年は問題なく過ごせればいいなあ……)

 ネタバレは多少あるので(個人的には言って差し支えないラインだと思って書きますが)気になる方はご注意を。

 それでは、第10位から発表です。

10.「攻殻機動隊 S.A.C SOLID STATE SOCIETY 3D」

(2011年/神山健治/日本)

 劇場体験の素晴らしさ。技術は表現に追いついた!

  「攻殻機動隊」を知らない人のために簡単に説明しておきます。もともとは士郎正宗による漫画なのですが、そこからアニメーターの押井守が原作のパラレル世界を描いた映画をつくり、押井守を心の師と仰ぐアニメーター神山健治(今や超ビッグである)がさらにまたパラレル世界を描いたTVアニメをつくり、さらにまた神山健治がパラレル世界を劇場用に作った作品がこれ。ずいぶんややこしいメディアミックスだが、世界設定はもっとややこしい。
 シリーズ全体としての基本設定はこうである。
  時は21世紀、第3次核大戦とアジアが勝利した第4次非核大戦を経て、世界は「地球統一ブロック」となり、科学技術が飛躍的に高度化した日本が舞台。その中でマイクロマシン技術(作中ではマイクロマシニングと表記されている)を使用して脳の神経ネットに素子(デバイス)を直接接続する電脳化技術や、義手・ 義足にロボット技術を付加した発展系であるサイボーグ(義体化)技術が発展、普及した。結果、多くの人間が電脳によってインターネットに直接アクセスでき る時代が到来した。生身の人間、電脳化した人間、サイボーグ、アンドロイド、バイオロイドが混在する社会の中で、テロや暗殺、汚職などの犯罪を事前に察知 してその被害を最小限に防ぐ内務省直属の攻性公安警察組織「公安9課」(通称「攻殻機動隊」)の活動を描いた物語。
初めて見る人は何言ってんのかわかんねえと思うが、ここで僕が言いたいのは、この作品のキモが「電脳戦」にあるということ。電脳戦というのはようするにバレないように相手の脳をハックして記憶を改竄するとか人工衛星との通信記録を傍受して居場所を逆探知して暗殺するだとか、そういうアレです。この3Dでは、なんとその電脳世界を疑似体験できるのだ! たまらん!
 3Dって言ってもそんな大したことないだろって思うかもしれませんが、想像以上にダイブしてました。

 僕が常々思っていることに「意図のないものは表現ではない」というのがあります。まあ一つの意見だと思って聞いていただきたい。

  僕は、人が何か表現しようとするとき、そのすべてに意図がなければならないと考えています。例えば映画だとわかりやすい。監督は画面に映るすべてのものに気を配らねばなりません。基本的なことです。必要な物だけをフレームに収め、そうでないものは排除する。あらゆる表現においてそういうことが言えると思うのです。いい作品というのは、無意味に思えるようなところがあったとしても、そこにはおそろしく張り巡らされた意図があったり、あるいは意図された「無意味さ」だったりするのです。

 で、3D。最近なんでもかんでも3Dにしすぎじゃねぇ? そこに意図はあるか? と僕は思えてならないのです。とりあえず飛び出りゃいいってもんじゃない。おっぱいと同じですね。
 ところがこの攻殻3Dはちゃあんと3Dである意味があるんです。電脳世界の体験という意図が。

 僕は映画館で観る映画について語るとき「体験」という言葉をよく使うけれど、まさしくそこにあったのは体験でした。映画が終わったあとヘッドホンを首にかけて「攻性防壁……!」とぶつぶつ呟きながら新宿を歩いていた人がいたと思います。それが僕です。

 この作品を10位に入れたのは僕がアニメ好きだということもあって、正直ちょっと贔屓目にしてるところはあります……。一作くらいはアニメを入れたかった。まあそういう選び方でもいいじゃない。

  ところで読者諸君はドリパスというサービスをご存知だろうか。要は観たい映画に投票して得票数が上位になればドリパスさんが版権元や劇場に問い合わせ、限定上映にこぎつけてくれるというとてもありがたいものである。一年ちょっと前からずっと僕はこの映画に投票し続けており、ようやく念願叶ったというわけで す。次これ観られるのはもういつになるかわかりません。
 読者諸君も是非ドリパスを利用してみては如何か。

9.「気狂いピエロ」

(1965年/ジャン=リュック・ゴダール/フランス、イタリア)
魅惑の映像詩。感覚の世界へようこそ。稀代の名作。

 この映画に関して言えばネタバレとかあんまり関係ないので言ってしまうが、あらすじはこうだ。
 「気狂いピエロ」と呼ばれるフェルディナンは、不幸な結婚をしていた。自らの退屈な生活から逃げ出したい衝動に駆られていたフェルディナンは、ふと出会った昔の愛人であるマリアンヌと一夜を過ごすが、翌朝見知らぬ男性の死体を見つけ、彼女と共に逃避行を始める。
 アルジェリアのギャングに追われながらフェルディナンは充実した生活を過ごすが、そんな彼に嫌気がさしたマリアンヌは、ギャングと通じてフェルディナンを裏切る。すべてに絶望し、マリアンヌを銃殺したフェルディナンは虚飾に染まろうと考え、顔にペンキを塗る。さらにはダイナマイトまで顔に巻きつけ、死ぬつもりで火を点けるが、そこで我に返ったフェルディナンは火を消そうと焦るも間に合わずに爆死するのであった。その画面にアルチュール・ランボーの詩「永遠」が朗読される。
 ここで気付く人もいるかもしれないが、この物語のプロットは「ある男が元カノと出くわして、ときめいて、一緒に旅をするんだけど、その元カノには他の男がいて、裏切られたと逆上し、女を殺して、自分も死ぬ」というありふれたものなのだ。物語的に楽しいシークエンスはあるにしても、はっきりいって陳腐だし、いわゆる「おもしろい」映画ではない。
 それでどうして名作と言われるのか。その理由は物語と別の所にあるわけだ。
 この映画はさまざまな実験的な演出、その中でも特に「引用」によって構築された作品だと言える。たとえばセリフの端々に引用されるポエム、様々なジャンル(メロドラマ、アクション、バイオレンス、ミュージカル、ロードムービー、etc)を取り込んだ物語(結末の海のシーンなどは溝口健二監督「山椒大夫」をそのまま再現したものだと言われている)、バンド・デシネのような原色のの色彩感、そういったサンプリングを「やっていいんだ!」と気付かせたのがゴダールなのだ。そしてそのバラバラのファクターを見事なモンタージュでつなぎ合わせた技術は神懸かり的だ。映像に興味がある人にはぜひ観て欲しい作品だ。

また、2000年代に入ってからの作品「アワーミュージック」(2004年/ジャン=リュック・ゴダール/フランス、スイス)も美しい。僕はどちらかと言うとアワーミュージックの方が好きなんだけど、作品の有名さとか、映画史的な観点から「気狂いピエロ」について書きました。気になる方はアワーミュージックも、是非。

8.「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」

(1998年/ガイ・リッチー/イギリス)
めまぐるしく展開される物語、イカした映像と音楽。最高のクライム・ムービー!

 ドラッグと大金をめぐる悪党たちの駆け引きを、スリリングに描いた作品。バイオレンスを軽妙なユーモアでスタイリッシュに表現したところがなかなか良い。

 悪仲間の四人組は、10万ポンドを用意してハチェット・ハリーに対して賭けを挑むも、ハリーのイカサマによって50万ポンドの借金を負うことに。途方にくれる四人組だったが、そのうちの一人エディは、隣人が大麻の売人を襲撃する計画を練っていることを知り、それを利用しようとする……。
一転二転三転四転する展開に頭がパンクしそうになるが、そんなことはお構いなしにジョークとバイオレンスがマシンガンのようにUKロックに乗って繰り広げられる。すっかり時間を忘れて見られる映画だ。
「スナッチ」(2000年/ガイ・リッチー/イギリス、アメリカ)もまあだいたい似たような作品だが、これもまた最高に楽しいクライム・ムービーだ。

7.「5つ数えれば君の夢」

(2014年/山戸結希/日本)
とにかくかわいい女の子。詩的なセリフと映像表現。新世紀の青春映画の開幕!

 日本映画界最注目(とか言われている)山戸結希監督の映画「5つ数えれば君の夢」。これまで山戸監督は東京学生映画祭だとかぴあフィルムフェスティバルなどで賞をとり様々な方面から評価されてきて、今回が監督の記念すべき商業映画デビュー作。なんと人気アイドルグループ「東京女子流」のメンバー5人が主演 です。
 山戸結希監督の映画はTwitterでよく話題にのぼってて感想なんかをたくさん見かけていたのだけれど、やっと今回監督の作品を初めて観ることができました。とんでもない映画でした。

 話の大筋は簡単で、文化祭を間近に控えた女子校を舞台に、5人の少女たち全員が主役となるエピソードが描かれます。

 憧憬、焦燥、衝動……
 様々な情景に彩られ翻弄される少女たちのかけがえのない日々。
 少女たちのきらめきと葛藤が、詩的な映像表現によって繊細に紡がれた映画でした。

  とにかく女の子がかわいいです。そして、話は単純ながらひとりひとりの人物に対する掘り下げが深く、一つ一つの言葉に重みを感じました。「ただのアイドル 映画でしょ?」って言いたいそこのアナタ、僕は全力で「NO!!!!!」と叫びますよ。そりゃ東京女子流のみんなは演技に関しては素人だし決して上手くはない。しかしそれぞれがキャラクターにハマりきっているし、それぞれが本当に鮮烈な印象を残していく。ちゃんと「全員が主人公」なんです。

 そしてそして、映像がむちゃくちゃ綺麗……。体育館いっぱいにスモークを炊いて描かれたラストシーンではもう鳥肌の連続です。岩井俊二監督の「花とアリス」を彷彿とさせました。

 最後のセリフでぼくはもう鳥肌が頭のてっぺんから吹き出しました。おかしな言い回しですが、本当にそんな感覚になったのです。理屈ではない、突き抜けるような感動がありました。

 もちろん粗い部分や薄い部分もたくさんあるし、舞台だって女子校っていう閉鎖的な箱庭でしかないけれど、それすらキラキラしてみえるんだから、ずるいよなあ……。
 僕はもう完全に山戸結希監督フォロワーです。今度は女の子だけじゃなくてもっと広がりのある世界を描いた作品も観てみたいナ。

 これ観たら一発で女子流ちゃん好きになりますよ。主題歌の「月の気まぐれ」も名曲でした。

6.「アイズ ワイド シャット」

(1999年/スタンリー・キューブリック/アメリカ、イギリス)
 どこからどこまで夢なのか? タイトルは和訳すると「目を大きく閉じて」。一種のナンセンス映画。

 スタンリー・キューブリック監督の遺作。原作はアルトゥール・シュニッツラーの「夢小説」。夢小説と言うからには夢の物語なのだ。じゃあどこからどこまで夢なのか? ということになるが、そこは普通に見てても判らない。完全に夢、とは言ってなくて、胡蝶の夢みたいなところ、どれも本当にあったことのように描かれているのだ。ただし謎を解くためのヒントはたくさんあって、そういう見方をしても楽しめる作りになっている。
 だが、違う。そういう正攻法で見る映画ではないのだ。
 「Eyes Wide Shut(目を大きく閉じて)」とは、アメリカの結婚式のときにオッサンがよく使う言葉がもとになっている。日本の「3つの袋」のような、「Keep your eyes wide open before marriage, and half shut afterwards.(結婚前は目を十分開け、結婚後は目を半分閉じよ)」という言葉なのだ。これは、結婚前は大きく目を開いて結婚相手を決めなさい。でも、結婚後は、目を半分閉じておいた方が良い、つまりは妻や夫のことを根掘り葉掘り聞きすぎると、結婚はうまくいかないよ、という意味だ(曰く町山智浩)。
 これは要するに「アイズ ワイド シャット」は目を見開いてる状態で見ちゃいけないってことなのだ。
 そういう楽しみ方で見る映画もあるってことで。謎を謎のまま美味しく食べられる人にはおすすめの映画だ。

5.「パルプ・フィクション」

 (1994年/クエンティン・タランティーノ/アメリカ)
 くだらない話(=パルプ・フィクション)の複合交差オムニバス。最高のナンセンス映画!

 強盗の計画を立てているカップルを導入部に、盗まれたトランクを取り戻そうとする二人組のギャング、ビンセントとジュールス。ボスの情婦と一晩のデートをするハメになるビンセント。ボクシングの八百長試合で金を受け取るボクサーのブッチ。誤って人を殺し血塗れになった車の処理に右往左往するビンセントとジュールス。ギャングのボス、マーセルスを軸としたこれらの物語がラストに向けて収束していく。

 よくできている。ただそれだけでクソみたいな中身のない会話に教訓も意味もない不条理な物語。その無意味さ、人間の意図が介在してないかのようなフラットさ。たまらなく好きです。そういうところがある意味芸術性を感じさせるけど、タランティーノはそういう芸術性をファックしたわけでもある。要するに最高のファック映画だってこと。
 緻密な伏線とか構成とかを楽しむ作品じゃない。これも感覚の世界ですね。 あとユマ・サーマンかわいい。

 自ら進んで時間を無駄にしたいファック野郎にオススメの映画だ。

4.「アンダーグラウンド」

(1995年/エミール・クストリッツァ/
フランス、ドイツ、ハンガリー、ユーゴスラビア、ブルガリア)
 昔、あるところには国があった。ジャムセッションのような奔放な展開とダイナミックさ。ユーゴスラビアの戦争の饗宴!

 1941年から始まった旧ユーゴスラヴィアの戦いと動乱の歴史を、マルコとクロという二人の男を通して描いた作品。41年、ユーゴ王国はナチス・ドイツに侵略された。クロを誘ってパルチザンに参加したマルコは、自分の祖父の地下室に弟やクロの妻などをかくまう。やがて重傷を負ったクロも地下室に運び込まれて……。
 95年カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した名作だ。

 第二次世界大戦、冷戦、内戦……歴史から激動の時代を華々しく写し取った、大迫力の奇跡の170分間。
 ともすれば深刻に陥ってしまいそうな題材だが、登場人物達が実にユーモラスで、騒々しく舞台を掻き回していくのが楽しい。

 音楽もとてもいいので、ちょっと予告映像も貼ってみる。この映画の楽しさのエッセンスは少しばかりだが感じられるだろう。

3.「戦場のメリークリスマス」

(1983年/大島渚/日本、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド)
 タイトルが全てを物語っている。様々な人種民族が入り交じる第二次世界大戦のなかで訪れたクリスマスという名の美しき和解と悲哀。強い意志、愛があれば全てなんとかなる……なんてことは残念だがない。それでも強い意志、愛を抱き続けて生きようと思える作品だ。

 あらすじ。
 1942年、日本統治下にあるジャワ島レバクセンバタの日本軍俘虜収容所で、朝鮮人軍属カネモトがオランダの男性兵デ・ヨンを犯す。日本語を解する捕虜の英国陸軍中佐ジョン・ロレンスは、ともに事件処理にあたった粗暴な軍曹ハラと奇妙な友情で結ばれていく。
 一方、ハラの上司で所長の陸軍大尉ヨノイは、日本軍の背後に空挺降下し、輸送隊を襲撃した末に俘虜となった陸軍少佐ジャック・セリアズを預かることになり、その反抗的な態度に悩まされながらも彼に魅せられてゆく。
 同時にカネモトとデ・ヨンの事件処理と俘虜たちの情報を巡り、プライドに拘る空軍大佐の俘虜長ヒックスリーと衝突する。東洋と西洋の宗教観、道徳観、組織論が違う中、各人に運命から届けられたクリスマスの贈りものが待っていた。

 よくネタにされている北野武の「Merry Christmas, Mr.Lawrence!」というセリフだけど、映画の中で聞くとひしひしと感動が伝います。

 出演者が全員男という異色の映画。登場人物全員が激しい自己主張をしてぶつかり合う。その緊迫感、迫力、色気ある映像がたまらん。

 これもまた音楽が素晴らしいです。 坂本龍一は天才だ。英国アカデミー賞作曲賞受賞。


2.「ハロルドとモード 少年は虹を渡る」

(1971年/ハル・アシュビー/アメリカ)
 死について考えて、生きることを考える。素敵な人生観を描いた淡い童貞喪失映画。

 19にして狂気と思えるほど自らの死に取り付かれたハロルド、一方対照的に79を数えなお若々しくふるまうモード、こんな二人がいつしか互いを包みあうように寄り添ってゆく。明らかにモラルに反する二人の仲が違和感なく入り込んでくるのは、互いが心を隠すことなく正直にぶつけ合うからだろう。一見邪道とも感じるストーリも愛すること、生きることをしっかりととらえたセリフにより深く心に突き刺さる。 

 えっ!? 少年×老婦人の恋愛もの!? って感じだが全然その年齢差を気にさせない愛が深い。二人の恋は物語の後半で成就しその夜に結ばれる(家族で見たりなんかすると空気が凍り付くのであらかじめ言っておく)。

 この話は厭世観に囚われた少年が人を愛することを知り、そのことによって自分を愛するようになるまでの成長の過程を描いた「死(自殺)を否定する」物語でありながら、同時に「死(自殺)を肯定する」物語にもなっているのが僕のストライクポイントだ。
 「自殺はダメ」みたいな馬鹿みたいな標語を掲げた映画はたくさんあるが、自殺を肯定した話は珍しい。映画史上最高に自殺を肯定的に捉えた作品だと言っても良いかもしれない。生きるも死ぬも、とにかく楽しみなさい! 自由サイコー! ってお話だ。

 天衣無縫な老婦人モードの言葉の数々が素敵なので覚えておきたいと思う。
 「一日一個、何でもいいから新しいことをしなさい」とかね。映画を観てひとつでもはっとさせられるようなことがあればそれは素晴らしいことだと思うしそういう体験があるから、映画だけでなく漫画や小説、人の創ったものを楽しむことはやめられない。
 映画ファンとしては、あのセリフをこんな感じでアレンジして言いたい。
 「え? あなたこの映画見てないの? それは素晴らしいわ! だってこの映画を観ることであなたは新鮮に感動することができるじゃないの!」って。

1.「親密さ」

(2012年/濱口竜介/日本)

 むきだしにさせられた心が容赦なく震わされる。膨大な言葉と物語の奔流!

 構成が特徴的で、ひとつの演劇に向けて試行錯誤する劇団員それぞれの人間模様が前半、後半はまるまる演劇の様子が流れるという構成となっている。ひとつの作品を作り上げるということは魂を削ぎ落とす行為にも等しい。それが団体でのものにもなると困難はとてつもないものになる。極限に達したストレスは心の壁を破壊し、劇団員の間で裸の言葉が交わされる。それは暴力にも似たコミュニケーションだ。255分に及ぶ上映時間の中で観る者はその若者達のエネルギーに呑まれていく。衝突、すれ違い、和解、わだかまり……それらの心の動きが上演の日まで丁寧に描かれていく(ここがとにかくエモい!)。そして、演劇の上演である。この構造、「練習を積み重ねてきた場面を観たから本番のシーンに重みが出る」なんてレベルではないのだ。

 この映画では、とにかくたくさんの言葉が劇団員たちの間で交わされる。うわべだけの言葉、自分では気付いていないけれど自分を守るための嘘、手探りで少しずつ見つけ出してきた心の底からの言葉。この映画について評した人が「膨大な量の言葉の奔流」といった。まさにそうだ。それらの蓄積によって、登場人物のセリフに込められた思いや、表情の意味、演劇の外で起きていること、すべてが融け合って、有機的な意味をもって僕らに伝わってくるのだ。

 この映画は多くの人が心の何処かで言おうとして言えずにいるたくさんのことを、少しずつ、いろんな登場人物の立場から代弁してくれて、またその中にもたくさんの気付きがあるような、若い僕らには響いて仕方がない映画なのだ。
 脚本が圧倒的にいい。映像もすごくいいけどこの作品はやはり脚本だと思う。会話のテンポやリアルさにセンスが光りまくっている。言葉が聴いていて快感になる。とんでもない武器だ。この映画では、たくさんの言葉で人の深いところをえぐる。

 だけどここで大切なのは、「この映画と比べて他の映画たちが深くないなんてことはない」ってことだ。要は、この映画を特に「刺さる」と感じる僕は若いの だと思う。悪く言えば、想像力が欠けている。「たくさん語る」という甘さ、若さ。たくさん語ってくれていることへの観ている側の甘えと若さ。

 一見これは弱点のように見えるが、必ずしもそうではない。作中の脚本家は劇団員たちに向けて「お前たちの弱点こそが武器なんだ、それを活かせ」と言う。 この作品の若さ。脆さ。小ささ。弱さ。そういったものすべてが、どうしようもなく刺さるのだ。悔しいことに。面白いと思えてしまうのだ。本当に悔しい。

 この映画はオーディトリウム渋谷のオールナイトで鑑賞したのですが、この映画を見終えて朝、白んでいく青い空を見上げてしみじみと感動が襲ったのを覚えています。作品の中でも「夜明け」というのが印象的に描かれていたので、尚更。長尺ということもあるので、ぜひオールナイトで観て欲しい作品です。

 一位に選んだ理由は、この映画との出会いがあまりにも衝撃的だったことがあると思います。思い立ってふらっとオールナイト上映に駆け込む僕も僕ですが、そういう偶然の出会いがかなり贔屓目にさせてるってところはあります。 でもそれでいいのです!
(コメント一部、過去の僕の発言からそのまま引用しました。その時の感動の温度を保ったまま伝えたいと考えてのことです。ご了承をば)

選外だけど悩んだ作品

キューブリック作品

「ロリータ」(1962年/イギリス)
「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」(1964年/アメリカ)
「2001年宇宙の旅」(1968年/アメリカ)
「バリー・リンドン」(1975年/イギリス)
「シャイニング」(1980年/イギリス、アメリカ)
「フルメタル・ジャケット」(1987年/アメリカ)
「A.I.」(2001年/スティーヴン・スピルバーグ/アメリカ)

緻密なプロット

「メメント」(2000年/クリストファー・ノーラン/アメリカ)
「インセプション」(2010年/クリストファー・ノーラン/アメリカ)
「インターステラー」(2014年/クリストファー・ノーラン/アメリカ)
「シックス・センス」(1999年/M・ナイト・シャマラン/アメリカ)
「バタフライ・エフェクト」(2004年/エリック・ブレス、J・マッキー・グラバー/アメリカ)

すばらしき日本映画

「小さいおうち」(2014年/山田洋次)
「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」(1995年/岩井俊二)
「キッズ・リターン」(1996年/北野武)
「ミツコ感覚」(2011年/山内ケンジ)
「ミロクローゼ」(2011年/石橋義正)
「BLOOD THE LAST VAMPIRE」(2000年/北久保弘之)

エンタメ~名画

「キック・アス」(2010年/マシュー・ヴォーン/アメリカ)
「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012年/クエンティン・タランティーノ/アメリカ)
「レオン」(1994年/リュック・ベッソン/フランス、アメリカ)
「ブレードランナー ファイナル・カット」(2007年/リドリー・スコット/アメリカ)
「ゴッドファーザー」(1972年/フランシス・フォード・コッポラ/アメリカ)
「家族の灯り」(2012年/マノエル・ド・オリヴェイラ/ポルトガル)
「市民ケーン」(1941年/オーソン・ウェルズ/アメリカ)

番外編 何度観てもいい映画

「言の葉の庭」(2013年/新海誠/日本)
「さびしんぼう」(1985年/大林宣彦/日本)
「リリィ・シュシュのすべて」(2001年/岩井俊二/日本)


 来年は新作映画だけでこれ書けるくらい映画たくさん観たいです……。新年一発目は「百円の恋」か「0.5ミリ」な?
 最後まで読んでくださってありがとうございました。
 それでは、よいお年を!

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