2015年4月30日

《やるせない映画》特集

ブログのほうが最近ご無沙汰になってました。
最近何していたかと言えば学校に行ったり映画みたりしてただけですが、学校の話をしても仕方がないというかできないので、映画について書きます。

とりあえず最近観た作品の中で面白いものを選ぼうかなとも思いましたが選びきれないので、テーマを絞って挙げてみようと思います。

題して、

【やるせない映画特集】

いかがでしょう。

こういうのホントに大好きなんですよ。不条理で不幸な話が。
別に「他人の不幸は蜜の味」ってんじゃないですよ。
ただ僕はそういう息苦しく圧迫されたしんどさのなかにある、ほんのひとすじの光を見つけることに救いを感じるのです。

どうか僕に救いをください。

※これを先に読むことによって作品の面白さが損なわれない範囲で書くつもりですが、それでも「ネタバレだ」と感じる線引きは人それぞれなので、そこまで考えて書くことは僕にはできません。なのでネタバレに関しては自己責任でお願いします。僕も気をつけますが。

1.「さよなら渓谷」(2013/日本/大森立嗣監督)

確か冒頭が男女の獣のようなセックスから始まっていて、度肝を抜かれます。まあそのシーンで「ああ、そういう映画なのだ」というのがわかるわけです。「セックス」が物語における根幹になっている、と。
 序盤にとある事件が起きて、それを記者が追っていくことで物語が進んでいく。最初はとくにその男女と事件の関係性はないように思われるのですが、実はそうではなく、さらにそのふたりの関係がとても奇妙であるということがだんだんわかってくる。その関係性がこの作品の見所で、とてもぐっとくる。ネタバレするのもなんなのでここでは言えませんが。
 「幸せになりたくない」という感情が理解できる僕にはとても響いたし、理解できないという人にも観てみて欲しい作品です。全体的に重たい作品ですが観る価値はあります。
 あと、主演の真木よう子の折れてしまいそうな細さ、薄幸さがとてもよかったです。
 原作は吉田修一、主演は真木よう子、大西信満。

2.「ダークナイト」(2008/米・英/クリストファー・ノーラン監督)

ノーラン監督によるバットマン実写化企画「ダークナイト三部作」の2作目。まあいわゆるダークヒーローものですね。自ら法を犯し汚名を浴びながらも警察の手が届かない犯罪者たちを葬っていくという。しかもこの作品の舞台となっている「ゴッサム・シティ」は警察も汚職まみれの掃き溜めのような街です。心なしか画面がいつも暗い気がします。
 前作「バットマン ビギンズ」では主人公がバットマンになった生い立ちと活躍を描き、そして今回はバットマンの《挫折と敗北》が描かれます。152分間ひたすら、これでもかというくらい主人公はすべてを失い、絶望に沈んでいきます。まだ完結編となる第三作目を残しているわけですから、こういう展開になるのもまあ予測の範囲ではあるのですが、それにしてもあまりにひどい。何も守れずに無力に終わる容赦のない結末にはぞっとします。
 ここで初めて登場するバットマンの敵役の「ジョーカー」がなかなか魅力的。金や欲望のためでなく、ただ殺したいから殺す、というような悪の権化みたいな存在。ヒース・レジャーの演技もとてもよく、狂気を感じました。1989年の古いバージョンの映画「バットマン」ではジョーカー役をジャック・ニコルソンが演じているらしくてそっちも気になります(それはまた別の話ですね)。
 3作合わせて一つの大きな物語になっているので、ぜひ3作順番に観てみるといいと思います。まあ、ただ僕はノーラン監督の作品の中では「メメント」「インセプション」「インターステラー」のほうが断然好きですが。

3.「タクシードライバー」(1976/アメリカ/マーティン・スコセッシ監督)

ニューヨークでタクシードライバーを始める男。こいつがけっこう最初から問題のあるやつで、まず不眠症を抱えていていて、さらにそのうえ社交性に欠けている。どれだけ社交性に問題があるかというと、好きになった女性との初デートでポルノ映画館に誘ってしまうほど。当然女性にもそこでふられてしまうわけですが、実はこの男もかわいそうな奴なのです。どうやらタクシードライバーになる前には海兵隊員としてベトナムへ行っていたらしいのですね。つまり不眠症も社交性の欠如もどうやら過去の兵役によるものだとわかる。ここらで社会的なメッセージが少し見えてきますね。そうやって女性にもふられ、何も思うようにいかない彼の心はどんどん荒み、病んでいく。「この腐敗した掃き溜めのような街を浄化しよう」という思いが強く固まっていき、そして破滅的なエンディングをめざす。
 そして迎えるラストが衝撃的です。表面的で単純な破滅は訪れません。結局は主人公の意志がほとんど介在せず、運に左右されて終わります。閉塞感から抜け出すための自分の《意志》による行為だったはずが、それも実は計り知れない大いなるシステムの歯車の一部にすぎなかったということに観客は気付く。「この腐敗した掃き溜めのような街を浄化しよう」と考え実行する主人公もまた《腐敗した掃き溜めのような街》のシステムに侵された悲哀の権化だったんですね。と考えればキューブリックの映画「時計じかけのオレンジ」とも通ずるところがあるかもしれません。
 物語の表面的な展開だけでなくその奥に、本当のやるせなさがあります。その表裏の齟齬に吐き気を覚えたような人なら友達になれそうです!
 パルム・ドールを受賞した、アメリカン・ニューシネマの代表作。主演はロバート・デ・ニーロ。

4.「チャイナタウン」(1974/アメリカ/ロマン・ポランスキー監督)

正直もう細かいストーリー忘れたんですけど面白かった印象だけは残ってます。あとラストシーンの不条理なやるせなさは忘れようにも忘れられませんね。
 1930年代のロサンゼルスを舞台に、ジャック・ニコルソン演じる私立探偵がとある殺人事件に巻き込まれていく、探偵モノのミステリ。古典的な作品ではあるがそこはやはり名作、緻密なプロットはミステリとしても社会派ドラマとしても最上級です。全編を覆うフィルム・ノワール的な虚無感が味わい深い。
 スピード感ある序盤の展開に引き込まれると、後半のじりじり真実へ詰め寄っていく展開にドキドキします。ラストシーンの衝撃と悲劇的なやるせなさは心に傷痕を残しますね……。こういう不条理な救いのなさもまたアメリカン・ニューシネマっぽいですが、アメリカン・ニューシネマと言われる作品群の多くが若い監督による挑戦を反映している点からすると、この作品は手堅い手法でまとめられた印象を受けます。
 アメリカ国立フィルム登録簿にも登録されたらしいです。名作ですね。

5.「エレファント」(2003/アメリカ/ガス・ヴァン・サント監督)

淡々と綴られる学生たちの青春日常群像劇。前半は数人の学生たちそれぞれに焦点を当てて、一日の様子を様々な角度から映しだしていく。なんでもない展開ですが、とにかくリアルに作ってあります。ひとつの会話をいろんな人物からの目線でとらえ、どんどん世界が有機的につながり、立体的になっていく。舞台となっている学校の地図がなんとなく頭の中に浮かんでくるくらい、日々が執拗に丁寧に描写されます。
 そして最後の日が訪れる。ふたりの少年が銃を持って学校に乗り込み、すべてがあっさりと終わります。たっぷり尺をとって描かれた人物も何も為すこともなく殺されます。現実には突然の死に伏線なんてありませんから。そしてその凄惨な殺戮のなか物語は終わります。
 後半の凄惨な展開もいいけど、前半の何が起こるわけでもないのにひしひしと辛い描写が秀逸。たとえば小説なら物語とはまた別の文法(文章の技巧)を使って空気感を表現するわけですが、それと同じようにこの映画も、映像という文法で「慢性的なしんどさ」を表現している。鮮やかでクリアすぎる映像と環境音。空を撮っただけのシーンなんて最高に気持ち悪いくらい綺麗でした。こういうのが見たかったんですよ! 似たようなことを岩井俊二も「リリィ・シュシュのすべて」とかでやっているけどどっちもまた全然違った手法で、好きです。
 この映画は、なぜ悲劇は起きたのか?その動機は?再発防止策は?死が何かを生んだか?教訓は?などといった疑問に、まったく答えていません。主義主張もありません。なので、物語にすぐに理由とか原因とかを求めてしまう性格の人にはちょっとよく理解できないかもしれないのですが、このことにはちゃんと理由があります。
 この物語は実は現実に1999年4月20日に起こった「コロンバイン高校銃乱射事件」をモデルにしていて、その空気をできるだけ映画に閉じ込めようとした作品なんですね。だから監督の意見とか考えとか、そういったものは全て排除されなければならない。殺す側にも殺される側にも偏らないような配慮のなされた構成になっている。「群像劇」という形態をとっているのも、物語に主体を持たせず拡散させるためなんですね。非常にフラットな視点をもった、(あくまでフィクションではありますが)ドキュメンタリー的な性質を帯びた作品なのです。ふつう映画においてセリフは物語を進行させるための装置(それと気付かれないように脚本家は工夫する)として機能するのですが、この映画においてはそういった側面はまったくありません。会話はすべてアドリブで、その場面に完結するだけの、どうでもいい日常の一幕でしかありません。また登場人物もほとんどが役者ではない素人で、役の名前には役者本人の名前をそのまま使い、人物設定にもある程度役者の性格や状況を反映させているそうです。そういった演出のひとつひとつが、この映画の中に閉塞感の中を生きる若者の世界を生み出している。本当に奇跡のような名作だと思います。
 主な登場人物のなかで唯一生き残るジョンは象徴的なキャラクターです。なんの象徴か?といえばそれは観客や、あるいは監督自身でしょうか。つまり事件を傍観する立場にある人間ですね。「エレファント」というタイトルは"Elephant in the room"という慣用句に基づいたもので、これは「誰の目にも明らかな大きな問題があるにもかかわらず、それについて誰も語ろうとせずに避けて日常を過ごす」といった意味なんですね。このことが作品の根幹をバッチリ語っているのですが、つまりここでいうエレファントというのがジョンのことを指していると考えることもできます。厳密に言うと、実際にはジョンは最後に事件の被害を最小限におさえようとして物語に干渉するので、完全な傍観者としては描かれていないのですが、監督が唯一この物語に込めた希望やメッセージがその点に集約しているのかもしれません。
 第56回カンヌ国際映画祭で、最高賞のパルム・ドールと監督賞を史上初めて同時受賞した伝説の作品です。僕の個人的なオールタイムベストにも入れていい。
 最低にやるせない暗い青春映画です。



 以上ですー。
 「やるせない」話ってたいてい結末が不条理で衝撃的なのでネタバレしないように書くのが難しかったです。ちょっと漏れちゃってるけど。でも面白さには影響しないと思います。本当に面白い作品はネタバレしても面白いものが多いですから、という言い訳をさせてください。
 観た人には共感を呼び、観てない人には観たくさせるように映画レビューを書ける日は来るのでしょうか?
 うーむ。
 あ、しかも「カッコーの巣の上で」も名作でした。あれもひどくやるせない話だったし書けばよかったかな? でも5本ってキリがいいのでこのままにしときます。それに長すぎても誰も読まないだろうしな!ファック!
 ……まあいいや。
 今日はこのへんで失礼しましょう。さようならー。

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