2015年5月1日

映画「そして父になる」

カンヌの審査員賞作(すごい!)。是枝監督はずっとファンだったので本当は劇場で観たかったのですが、諸々の事情でタイミングが合わずじまいで、それで先日TSUTAYAで旧作になってるのを見つけてBlu-rayで観ました。

 超良かったです。

 この映画は新生児が出産直後に何らかのかたちで別の新生児と入れ替わる事故、いわゆる《取り違え》を題材にしていて、物語が開始してすぐ病院からの連絡があり、一見裕福で幸福そうな家庭がとんでもなく大きな問題にぶち当たり、頭を悩ませます。

 冒頭は子供の小学校受験の面接シーン。面接官に「お子さんの長所は?」と聞かれて「妻によく似て優しいところです」などと話をするのですが、それが「本当は実の子供じゃなかった」という、取り違え事件の伏線になっているのですね。似てるも何も血が繋がってないんですから。それでいてその家族の「建前」と「内実」の齟齬が明瞭にあらわれている秀逸な導入だと思いました……。すごい。

 息子のお受験に合格したお祝いに一日ゲームするのを許した母に、父親が「一日休むと取り戻すのに三日かかるんだぞ!」とたしなめるんですが、それもわかりやすい伏線でした。
 まずはお互いの子供を週末だけ交換してみようという話になり、それが何ヶ月か続く。で、福山雅治は家庭よりも仕事をとる男だったので、それまで自分の子供とも時間をとってこなかったんですね。だから、その時間をあっさりとリリー・フランキーに抜かされてしまう。福山の子供がリリーに懐いてしまうんですね。

 非常によくできた物語ですが、個々の場面はそういったフィクショナルな印象を受けません。これは映像の力で、是枝監督の力です。是枝監督はもともとドキュメンタリーの人で、それを活かして自然な演技、自然な撮り方のできる希有な監督。「ワンダフルライフ」とか「誰も知らない」でもそうでしたが、その力をみごとに活かした作品だったのではないでしょうか。

 物語は表層と深層の部分に分けることができると思っています。表層というのは「目に見えた物語の流れ」で、エンタメ的な作品はこの部分だけで楽しめるように作ってあります。深層というのは「物語の裏にある精神的な流れ」で、登場人物の心情や作品のテーマなどがここにあらわれます。
 この作品における表層の問題は「取り違えが発覚した。それで(現実的には)どういう解決が正解か?これまで過ごした時間を取るか、血を取るか?」。そのことについて福山雅治(とその妻、そして相手方の夫婦)が悩むことによって物語は推進します。……が、この作品が言いたいのは「どういう解決が正解か?」なんてものではありません。大事なのは深層、「自分が父親としてどうあるべきかという自分自身の問題に福山がぶちあたって、それを乗り越えること」にあるんですね。「そして父になる」というタイトルも明快です。これは福山雅治が「父親になる」物語なのです。《取り違え》はそれを描くためのひとつの題材にすぎません(とはいえこの問題について社会に提示した意義は大きいと思います。ここではあくまで物語の構造についてのみ話しています)。実際、物語の最後まで、両方の家族の結論は描かれません。

 キャストについても語らねばなりません。福山雅治の演技がすばらしい。合理的で理知的な男、福山が次第に父親としての自覚に目覚めていくその機微を見事に表現していたと思います。それにかっこいい。脇を固める尾野真千子(福山の妻)、真木よう子(相手方の妻)、リリー・フランキー(相手方の夫)も個性的で良かったです。真木よう子がかわいい。綺麗。大好き。

 仕事はできるけど家庭ではドライ、子供の前だけで「父親」を演じる福山雅治と、お金がなくて頼りないけど父親としては良好なリリー・フランキーの対比がうまく効いていて、観ている側はつい「どちらがより良い父親か」ということを考えてしまうのですが、まあそういうことじゃないんですよね。大事なことは。
 リリーのなんだかんだしっかりした父親としての言葉、ラストシーンの福山のセリフに、胸がぐさりとして、それからすっとします。
 子供のいる人がみたらまた全然違った印象を受けるんだろうな。僕も子供ができたらまた観たいと思います。
 この夏でしたっけ? 公開予定の是枝監督の作品「海街diary」への期待が高まります。原作がとてもいいので、絶対に観に行きますよ!



 真木よう子がとてもかわいいので、結婚したいと思います。

(2013/日本/是枝裕和監督)

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