2016年8月29日

『君の名は。』雑感(ネタバレあり)

誰に見せるようなものでもないですが、一応なんとなくメモがわりに
一度観ただけなのでまた後日観てきますたぶん

以下ネタバレありです。けっこうネタバレが致命的な作品なので自己責任でどうぞ


●テーマ

相変わらずテーマの核にあるのは「心の距離」で、過去の作品のほとんどと一貫している。
「ほしのこえ」では宇宙規模でのメールのやりとりによってそれを描き、「秒速5センチメートル」では少年少女が大人になるにつれ互いに歩み寄れなくなっていくさまを丁寧に描出した。
今回は「入れ替わり(TSF)」によってそれを描く。要は「入れ替わって互いのことを認知しているのに、面と向かって会うことがない」という、奇妙な二人の距離感が生まれるのである。
しかしこの男女の入れ替わりというネタは大林宣彦監督の映画『転校生』の頃からもずっとあるし、永遠のロマン(?)があるとはいえ正直使い古された感がある。そこで、『君の名は。』では一捻り加えられている。
まさに文字通り、この二人の主人公の間に流れる時間が、ねじれているのである。
この設定が明かされる中盤以降はゾッとする展開も待っており壮大だ。二人が同時に同じ時を共有していない。
これにより「決して同時に出会えない二人」という新たな構図が発生し、二人の心の距離に複雑さを与えることになる(まあちょっとだけ出会うわけですが)。
この設定がとにかくうまく使われていて最高。

一方で最も使われるモチーフが「紐」。人との関係を表現するのに紐? ストレートすぎねえ? と思うのですが、まあこれくらいシンプルでよかったのでしょう。
このモチーフがシンプルな芯となって作品を貫くことで、「ねじれた時間での入れ替わり」という複雑な設定をうまく支えられているという感じでしょうか。
新海監督はだいたいシンプルだけど使い方が上手いという感じのモチーフが多い気がします。むやみに複雑なのよりもそういうのがいいよな

あとどうでもいいのですが、ねじれた時間の結節点が「御神体のある山の"かたはれどき"」にあり、二人はここで出会うことができる、という設定がすごくCROSS†CHANNELの祠の設定を思い起こさせました。知らない人は無視してください。

●ファンタジー感がすごい

田舎町、糸守町のファンタジー感。ちょっと歩いたらなんか別世界に迷い込んだみたいな岩と森の世界が出てきたりして戸惑いましたがそれ自体の雰囲気はすごくよかったし、全然良いと思えなかった「星を追う子ども」がここに繋がったのかと思うと少しほっとしたような気にもなりました。
やっぱりちょっとあの表現は過剰な気がしますけど。「日本の田舎」としてのリアリティはわりと崩壊していた。

●プロット

とにかくエンタメ。SFとしてよく楽しめるようにわりと作りこまれていて、今までの新海誠作品とはやや毛色が違うような気も。前半がわりと純度の高いラブコメ展開で、「彗星の日」以降ガラッと展開がシリアスになるのもポイントかと(…やっぱエロゲじゃん!)。ラブコメ部分も最高にむちゃくちゃ面白い。
さっきは「入れ替わりの設定が複雑」と言いましたが、まあそれは観てればわりとすんなり飲み込める程度のもので、特に頭をひねらなくても理解できるようにはなっている。『星を継ぐ者』みたいなゴリゴリのSFほどには緻密で複雑でもないが、プロットが効果的にキャラクターの心情を引き出しているところが最高。
彗星が落ちた後の展開はかなりゾッとしたし、彗星から町民を守るくだりなんかがちょっと雑な気はしたけど、それでもずっと目が離せなかった。

ちょっとだけ心情描写の細やかさがエンタメプロットの犠牲になっている感は否めないかなとは思いました。
ただそれはそれで成功しているのでたぶんオッケーでしょう。
…っていうか昔からずっと心情描写って要約してしまうと「きみに会いたい」だったし、まあそんなには変わってない。

●MV映画?

RADWIMPSの曲は別にいいんですけど、けっこう気が散る(散った。僕は)。あと劇中歌が多すぎるのでもう少しボーカル曲は減らして欲しかった……。
MVみたいになるのは別にいいんですよね、『フリクリ』だってそうだし。いったい何が違うのかわからんが……
あとまあ劇中歌はギリギリよしとしても、あのTVアニメみたいなオープニング映像はちょっと萎えた。というかオープニング映像が流れている間はむちゃくちゃアツくなって既に泣きそうになったんですが、映像が終わった瞬間の一瞬の間とそこからのカットの入り方が完全にテレビアニメで、そこでかなり萎んでしまった。TVアニメが悪いっていうわけじゃないんですが、なんかちょっと引っかかったんですよね、これもなんでかわからん

●パンチラ

劇場の客層を眺めると、ファミリー層の期待もかなり高いことが伺えた本作だったがパンチラがある。
女子高生のパンチラだ。こういうのはちょっとした批判もありそうなものだが、これは人物描写の一貫だし、いたずらに性的なものでもないからいいだろう。
むしろ男が女のなかに入ってガサツ、っていうのを端的に表現するいい方法だったと思う。その一方で三葉は普段は絶対にパンチラしないし。明確な対比がある。

パンチラだけじゃなくてもなんかいろいろフェチい表現多くてよかった、よかった。
冒頭の入れ替わってすぐのところでおっぱい揉むのとかまあロマンですよね。え?過剰だって?ああいうのはいいんですよあれくらいで。
あと口噛み酒のくだりは本当によい。

●彗星が美しい

作中ではこの彗星をきっかけにして何百人も死に「最悪の災害」みたいな感じで言われるわけですが、しかしそれとはあくまで別に美しくも描かれている。「美しい眺めだった」だとかモノローグも入る。こういう残酷さと美しさを共存させて描くところが新海監督っぽいです。
東京・新宿の無機質な構造物を冷たく描きつつも優しくも描いている感じとかが僕は好きで、新海監督のまなざしはここでも一貫しているよなあと思いました

●『名前』のもつ意味

「名前」ってきっと二人にとっては特別なものなんだろうな。なにせ二人の出会いの始まりは名前を知るところから始まったわけですし。
夢のなかで入れ替わっていて、でもその内容はすぐに忘れてしまう。けれど手のひらに書かれた名前が確かに別人を示している……というところから、決して出会うことのない二人の出会いが始まった。
自分と入れ替わっているのがどんな奴か、直接は知らない。周囲の人間の反応とか日記の中だけでなんとなく知っていくのだけれど、それだって間接的なもの。唯一確かなのは、相手の名前だけ。
名前だけを知っている相手の、その名前すら忘れてしまう。どんどん記憶を失っていく中で、せめて名前だけでも覚えていようとするのに、それもできなくなってしまう。というのが終盤の泣き所で、そこが本当にキツい。
最後のセリフ「君の名は……?」は、その名前すら忘れてしまってもなお、「何かを失ったということだけは覚えている」という二人の、「会いたい」という気持ちの残滓が見えたような気がして本当に良かったです。救いだ……



ついでみたいに言うのもなんですが作画演出は最高でした。同じキャラでも、今どっちが入ってるかによる描き分けとかすごくよくて、設定に自然な説得力を与えていたと思います。素晴らしいアニメーションでした。
そして明らかに凄みを増している新海監督の次回作がどうなるかが楽しみです
次あたりで新海誠・完全体になるような気がしているんですが、どうでしょうか

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