恋というものが落ちるものであるならばきっと恋にも重さがあるのだろう。もちろん豚にも。
久しぶりに降った豚はまるまる太って大きく、そしていつまでも降り続いた。思い立ってテレビのニュースをつけるとちょうど天気予報が流れているところで、そこには画面いっぱいに豚の笑顔がスタンプされていた。地形的な理由で普段はそれほど降らない関東平野だけど、この先しばらくは降り続くみたいだ。少なくとも一週間くらいは。
忙しくなりそうだ。
テレビを消すと途端に豚がバシャバシャとはじける音が耳につく。団地のわりと高い階に住んでいるぶん、その不快な音はまだ遠いだけましかもしれない。
しかしとにかくこの降豚は都合がいい。ぼくは彼女に電話をかける。三コールと待たずに、彼女はいきなりぼくの名前を呼ぶ。
「すごいね豚! いくらでも捕れる!」
電話越しにバスバスバスッという鈍い音が断続的に聞こえ、その音に彼女の喜色が重なる。豚収穫を生業とする彼女の家は、その広大な敷地に大きな鉄串をいくつも並び立て、その剣山のような罠に落ちて刺さる豚を売り生計を立てている。これだけ降ればさぞかし笑みが止まらないことだろう。
「私んちみたいに小さい収穫家じゃこの量、ぜったい売り捌ききれないって! 明日にでもうち来ない? 豚しゃぶ食べ放題」
「うん、それは嬉しいんだけど」
ぼくはカーテンの隙間から、降りやまない豚の向こうに快晴を見ている。豚に興味はなくとも、彼女が喜んでいればそれでいい。
「あ、ごめん。何だっけ?」
「ぼくの仕事は掃除であって、余りもの処理じゃない」
「あはは。その返事は聞き飽きたってば」
豚が降るメカニズムはよくわかっていないのだけれど、予報ができるくらいなのだからきっと賢い人たちは知っているはずだ。まあ実際のところはどうでもいい。
窓を開けてベランダから見下ろした景色はぼくの仕事場と化している。職業柄慣れたとはいえ鼻につく血と獣の毛の臭い。目の前を横切って落ちてゆく豚と豚と豚。
ぼくはただぼんやりと、この降る豚のなかでどうやって彼女に会いに行こうかと考える。ぼくの意識は彼女で満ちて重くなり、落ちていく。彼女のおかげで肥えてゆくぼくもまた豚だ。
「ニュートン」というお題で書きました。
ダジャレ……にしてもほとんど関係ないですね
最近は大豆グラノラがおいしいです。
ヨーグルトとの組み合わせがさいつよです
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