2015年3月1日

映画「幕が上がる」感想など


今日は映画「幕が上がる」を観に行きました。

全体的に良かったです。

最初に断っておくと、僕はももクロのことが好きです。映画を見ることも好きです。だからこの映画を見ました。
ももクロのことも映画のことも好きな僕としては、先入観に流されず、公平に楽しみたいと思っていました。わりとそういう見方ができたと自分では思っているので、これから書く感想は、けっこう公平なものになっていると自負しています。異論は、もちろん認めます。

見たことがない人向けに簡単に紹介すると、映画「幕が上がる」は、本広克行監督、平田オリザ原作、主演ももいろクローバーZ(アイドルグループ)の、2015年公開の邦画です。
高校演劇に青春を捧げる少女たちの姿が描かれます。
気になる方はぜひ見てください。ご家族でも楽しめる親切設計となっております。

ここから先はネタバレありで書きます。ネタバレしなければ書けないことがいくつかあるので、あしからず。

まずは全体的なざっくりとした感想を。

映画としての出来がよい、という話を聞いていましたが、たしかにそう言う意見が出るのも頷けます。
冒頭数十秒。それだけでこの映画の映像においてはある程度は安心できました。そこはやはり、ベテランの本広監督のおかげですね。
劇中の舞台シーンはもちろん、その準備や裏方の動きもなんだかリアルで、輝いて見えました。(僕は演劇を知らないからそう思っただけなのかもしれないけど)

脚本もなかなか良い。原作でも、劇中の舞台「銀河鉄道の夜」と物語がリンクしていて、主人公達が演劇と格闘することで現実世界の悩み事と向き合う、という構造になっている点では同じなのですが、この脚本では「銀河鉄道の夜」について原作よりいくらかわかりやすく、読み解くテーマを抜き出して語られていて、そのぶん主人公達の向き合っているリアルがよく浮き彫りになっていたように感じました。
クライマックス、現実の厳しさに打ちのめされ、不安や諦念を抱きながらも、演劇の持つ無限の可能性に挑もうとする主人公のセリフは、その演技の迫真さと相まって、ぐっときました。

そう、演技も良かったのです。
ももクロって演技はどうなの?と思われるかもしれません。僕も心配していたことの大部分はそのことについてでした。
その点についても僕は「さほど心配しなくても大丈夫」と言えます。
最初は確かに面食らいました。あからさまに「うっ、下手くそ!」って演技も結構あって、かなり危うい、綱渡りのようなハラハラ感から始まっていました。ですがしばらくすると、すんなり演技に見入っている自分に気づきました。僕がだんだんその下手くそな演技に慣れてきたのかと一瞬考えましたが、どうやらそうじゃないらしい。
中盤、画面を見ると、微妙なニュアンスをいかんなく体現している女の子たちの姿がありました。驚きです。彼女たちは映画の撮影中に、めまぐるしく進化していたのです。役に馴染んでいったと言ったほうが近いかもしれない。そしてその演技の進化は、物語の中の少女たちの成長とリンクして、ゆっくりと感動を積み上げていました。

しかし、それでも。
僕はこの映画が、あくまで女優ももクロではなく、アイドルももクロの映画だったと思います。
はっきり言って、ももクロのことを全然知らない人にとっての敷居は高い作品だったと感じました。
良くも悪くも、「正しいアイドル映画」でした。

と、褒め言葉から始まって難点も挙げてみました。ざっくりと。

ここからはもうちょっと細かいところに的を絞っていくつか思うことを書いていこうと思います。

いくつか挙げてみる前に、ストーリーを軽くおさらいしておきましょう。
物語の舞台は県立富士ケ丘高校の弱小演劇部。顧問の溝口(ムロツヨシ)は演劇の知識も無ければ指導力も無い。部長を務める高橋さおり(百田夏菜子)に加え、お姫様キャラのユッコ(玉井詩織)、ムードメーカーのがるる(高城れに)、しっかり者の明美ちゃん(佐々木彩夏)、演劇強豪校からの転校生中西さん(有安杏果)など個性豊かなメンバーがそろう。
かつて「学生演劇の女王」と呼ばれた新任教師の吉岡(黒木華)との出会いによって、彼女たちの運命は一転。全国大会(全国高等学校演劇大会)を目指し全力で演劇に打ち込んでいく。演目は『銀河鉄道の夜』。
高校の演劇大会は年にたったの一度、負けたらそこで終わりの一発勝負。ひたむきに青春を駆け抜けた彼女らが、最初の難関である地区大会に挑む。果たしてその結果は…。そして、吉岡の心にはある迷いが生じるのであった。

以下、細かい感想。

  • 冒頭のモノローグは過剰気味。原作が小説だから仕方ない部分はあるにせよ、ちゃんと「映画」として書き換えきれなかった印象は強い。 
  • 劇中歌。これは正直やめてほしかった。(ももクロの)ファンサービスが過剰な印象があるので、そんなに好きじゃない人はげんなりしてしまうのでは。そういうプロモーション的な匂いを作品の中で感じると、ファンでも萎える人は萎える。エンディングの「走れ!」「青春賦」は良かったと思います。じんときました。 
  • 演出が少しくどい箇所がありました。夏菜子の夢のシーン、あれは必要だったのでしょうか?劇中歌を入れるためにむりやり作ったシーンなのでは?といらぬ想像をしてしまいました……。
  • 夏菜子のプールに飛び込むシーン。単体で見れば綺麗でとても良いのですが、その直前の胃もたれするような演出や、脈絡のなさ(そのシーンが挿入される必然性が見えない)でそんなにいい活かしかたをされているようには感じませんでした。 
  • 中西さんが演劇部に入る決意をするシーンはすごく気合入ってて好きなんですけど、それ以前のシーンの演出にもこだわりを感じます。それまで中西さんは 「さおり(夏菜子)に背を向けた存在」として描かれてんですよね。印象的なのはいつも背中。その演出が僕は好きです。振り向き様が素敵でした。
  • ストーリー上の問題が何点かあります。まずは吉岡先生の裏切り。きつい言い方ですが「裏切り」と言って差し支えないと思います。残された部員に送られた言い訳のような手紙は、「あなた達の演技が素晴らしいから私は演劇をまたやりたくなった」という、論のすり替えが目立つ、卑怯なものだと思います。原作でも同じでしたが、この点はどうしても受け容れられませんでした。
  • 次に未消化の問題。中西さんの滑舌、明美ちゃんの悩み(スランプ)がどう解消されたのかがあやふやなまま話が進み、終わってしまった。好意的に受け取るならば、少女の将来性(未完成性)の表現という可能性もあるかもしれませんが、素直には受け止められません。中西さんの滑舌の問題については、彼女を演じる有安の滑舌の問題を誤魔化すための安易な設定改変にすぎないように感じます。それならそれで、しっかりと落としどころをつけて欲しかったなと思います。
  • 映画とは直接関係ありませんが、ももクロのファンの鑑賞態度。ライブに行くような完全武装で狭い座席に座ることで、普通の人(ももクロについてそんなに強い思い入れが ない人)を威圧している気がします。そういう思いがけないところで、この作品の敷居を高くしているということはあると思います。確かに服装は個人の自由です。ですが、ファンなら「ももクロにとって本当にいいこと」を少し考えてみてほしい、と僕は思います。これは僕の勝手な気持ちですが、僕がこういうことを一人で考えて、こうやって間接的に口にするということも、自由であるはずです。大事なのは各々が自分で考えることだと思います。
  • 小ネタがたくさんあって楽しい。平田オリザの顔を模した人形?とか。あとは点呼、これもももクロのお家芸「出席取ります!」を意識していると思われます。それから、ももクロとゆかりのある方々がたくさん登場していましたね。松崎しげるが出てきた時には、思わず涙が出てきました。ライブで松崎しげるが大きいニュースを発表するために登場するたびにももクロのファンは涙を流すので、松崎しげるを見ると反射的に涙を流すのです。パブロフの犬です。天龍源一郎の滑舌は卑怯、むちゃ笑った。

役者の話が出てきたので、メインキャストについて最後に触れておきますね。

  • ムロツヨシのアクの強さがよく出てました。他の登場人物に自然に馴染んでいたかと言われると微妙ですが、そういうところも許せるキャラクターなのはすごいです。僕は好きです。たくさん笑いました。
  • 黒木華。最近大活躍ですよね。でも正直、僕はこの役には合わないのではないかと考えていました。ところがびっくり。わりと低い地声の演技が、迫力のあるいい先生にぴったりとハマって、物語に説得力を与えていました。素晴らしいキャスティング、素晴しい演技でした。「吉岡先生」の人物については、前述の理由からどうしても好きになれませんが。

ももクロのメンバーそれぞれについても思うところがあるので順番に書いてみます。
ここから先は完全にファンの目線です。

  • れにちゃん。正直かなり浮いている。演技はあまり褒められない。でも、演技が小さくまとまっている他のメンバーとは違って、すごくダイナミックに動けていたと思います。これはひとつの才能です。これを伸ばしつつ、演技力を鍛えていけばいい女優さんになれるはず。動きが大きいというのは、そういう役どころだったと言えばそれまでですが、役にハマるというのは大事なことです。
  • 夏菜子。ももクロのメンバーの中で一番自然に役になりきっていたと思います。これからも役者の仕事がたくさん来るんじゃないだろうか。この映画を足がかりに、どんどん先へ進んでいく未来が見えました。
  • しおりん。華があります。かわいい。奔放で繊細なお姫様、という(現実的に考えてみると、すさまじい)設定が難なく入ってきます。これはもう天性のものですね。劇中の舞台「銀河鉄道の夜」の中でのボーイッシュな衣装がとっても素敵でした。演技も安定していたし、これからの仕事にも期待でいっぱいです。
  • あーりん。あーりんってこんな演技うまかったっけ!?そんなイメージじゃなかったです、ごめんなさい。演技っぽい演技、って感じですね。もっと自然に振る舞えるようになれば、かなり化けるんじゃないだろうか。今のままでも、映画じゃなく舞台とかだとすごく活きそうな演技です。
  • 杏果。初登場シーンがとっても印象的。一人ぼっちの切な気な佇まいがとっても役にハマっていました。感激しました。セリフを口にすれば滑舌の悪さがやはり目立ちましたが、なにげに演技もかなり上手い。一瞬だけ映った劇中の舞台での、とても情動的な演技は、ちゃんと見ればすごく刺さりそうな気がしました。滑舌なおせばとってもいい女優さんになれるのではないでしょうか。僕も滑舌が悪いのでとても共感できるキャラクターでした。愛おしいです。

映画の最後の最後で初めて、「幕が上がる」のタイトルが映し出されます。
それは彼女たちの人生、夢の幕が上がったばかりだというメッセージ。
本当に大変なのは、その先。
でも、彼女たちはすべてを乗り越えて、輝き続けるでしょう。

「私たちは、舞台の上でなら、どこまででも行ける。どこまででも行ける切符をもっている。私たちの頭の中は、銀河と同じ大きさだ。
(中略)
どこまでも行けるから、だから私たちは不安なんだ。その不安だけが現実だ。
誰か、他人が作ったちっぽけな「現実」なんて、私たちの現実じゃない。

私たちの創った、この舞台こそが、高校生の現実だ。」(平田オリザ「幕が上がる」より)



僕はずっと祈り続ける。彼女たちの行く末を。



ちなみに今日は、岩井俊二監督の「花とアリス殺人事件」も鑑賞しました。岩井監督のことが大好きなので観に行きましたが、今作も最高に面白かったです。
映画「花とアリス」が好きだった人は、今度の作品も見に行くと楽しめるはずです。できれば何も知らずに見て欲しいので、多くは語るまい。

今日は本当にいい一日でした……!

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